令和元年 7月3日
一般社団法人 日本・オマーン協会

日本・オマーン協会は、特別講座(ビジネス戦略)を新たに開設。

中西帝京大学教授が、中東、アラブ湾岸地域を戦略的に分析し、ビジネス環境を考察、展望します。法人の会員を主な対象とする講座として、「多面的に見る中東情勢―勢力バランス、宗教、民族の視点から」と題し、3回に分け、グランドヒル市ヶ谷で開催しました。

開設にあたり、大森理事長は構造的に変貌する中東情勢を戦略的に分析し、アラブ湾岸地域のビジネス環境を考察する、参加の皆様と意見交換しながら理解を深める講座になればと述べた。

① 第1回 「中東諸国と大国」~米中ロの影響力とバランス変化、  6月24日(月)
中東地域内で注目を要する主要5か国(サウジアラビア、イラン、エジプト、トルコ、イスラエル)の最近の動向を概観し、米中ロの中東への関与を分析。
ロシアは、米国の「Asia Pivot」による政策転換による「力の空白」に乗じ、エジプト、トルコと過去にないような接近を見せている。NATOや欧米連合の切り崩しに使えるカードだと考えていることもある。
中国については、日経新聞の元北京特派員の佐藤氏が担当。 「一帯一路」構想を掲げ、中国を中核とする政治、経済の勢力圏、アメリカの意向に左右されない地域協力圏の構築を目指している。中東については、エネルギー、インフラ整備を重点に、「パートナーシップ」の関係であるか否かで協力の位置付けを決めていると興味深い分析を披露。 オマーンは、「戦略的パートナーシップ」関係と位置付けられている。
中西教授は、ロシア、中国の中東政策は、「経済」を窓口に「政治」の影響力を強める狙いか、と総括している。
米国は、空母を中心とする打撃群を派遣し、緊張が高まっているが、ロシアという要因が背景にある。ロシア、中国の勢力拡大に対応し、「基本的にはアジア重視だが、中東でもメリハリをつけ取りこぼさず」の戦略に努めていると推察できる。こうしたゲームは今後も続くと分析。

( 意見交換 )
中国政府が区分する2国間関係の具体的基準は何か、また、「パートナーシップ関係」と位置付ける狙いはどこにあるか。米国の対外政策は大統領選によって変わるのか等について意見交換がなされた。

② 第2回 「民族と宗教」 中東各国への影響   6月26日(水)
中東では、民族と宗教が重要な意味を持つ。 1950年代にアラブ民族主義が台頭し、イスラエルや西欧諸国との緊張を迎えるたびに、一層の高まりを見せた。現在、依然として紛争は継続しているが、当時と比べるとアラブ諸国間の連帯は弱く、むしろ分裂し、宗教、宗派の対立、確執が顕著になっている。 特に、イスラムのスンニ派とシーア派の軋轢が目立つ。イランは、シリア、レバノン、イエーメンにあるシーア派系の政権、政党、民兵組織などを支援し、影響力の拡大に努めている。 イラクでは、シーア派が政治を主導するようになり、イランと「シーア派国家」同士として交流が始まっている。
サウジアラビアは、かつて覇権を争ったヨルダンとシーア派への対抗で知恵を寄せ合う関係にあり、スンニ派の絆が生まれている。
アラブ諸国では、強権政治が続いた結果、「アラブの春」が起き、既存の体制に大きな揺らぎがでた。しかし、それに代わる安定的な政治体制、統治モデルを見いだせていない。

( 意見交換 )
スンニ派とシーア派が拮抗し、キリスト教とのバランスをとるレバノンの統治モデル、シーア派、スンニ派の宗教、クルドとの民族、「統一と融合」に努めるイラクの統治モデルに関連し、イスラム国の統治機構、国のアイデンティティについて意見交換がなされた。 また、イスラム諸国において、政治的(国家)帰属と宗教的帰属の関係をどう理解するか、国境を越えた「交流」、「資金(税)」の流れ等について積極的な質疑、意見交換がなされた。

③ 第3回 「中東政治・経済の展望」 7月3日(水)
これまでの講義を総括しながら政治・経済を展望し、意見の交換が行われた。
現在、地域の戦略環境は、親欧米とみられていたトルコ、エジプトがロシアと注目すべき関係を築いているなど従来の枠組みで捉えるのが難しい状況が生じている。トランプ米大統領は、中東和平案「世紀のディール(取引)」の経済に関する部分を6月22日公表した。パレスチナ自治政府への経済支援をテコに和平の実現を目指すものであるが、パレスチナ側は冷ややかな反応を見せ、トランプ政権とイスラエルとの関係を考えると、和平の前進は難しい。サウジアラビアは、国家財政に占める原油への依存度を下げる経済改革に積極的に取り組んでいる。ムハンマド皇太子は大胆な方針とイランへの強硬姿勢を取っており、その決断力と背景に存在する側近の動向など、サウジアラビアに注目する必要があると分析
米、露、中の中東への影響力行使の今後、地域内の、サウジアラビア、トルコ、エジプト、イラン、イスラエルは地域安定にどのような行動をとるか等について活発な意見交換がなされた。 現在の中東情勢は、従来の欧米対露中、イデオロギー中心の対立から、政治、宗教、民族、歴史文化等に起因する「地政学的対立」へと構造的な変貌を遂げている。
特別講座(ビジネス戦略)は、戦略的に注意深くビジネス環境を考察することが肝要との認識で終了した。

(協会事務局からのお願い)

特別講座(ビジネス戦略)は、協会として初めての企画です。
会員皆様のご意見とご協力を頂き、さらに充実した講座に努力して参りたいと考えております。
皆様のご意見、ご助言を是非協会事務局にお寄せいただくようお願い申し上げます。