オマーンに電力を安定供給 ― 丸紅の挑戦

国づくりの基礎は、治安と経済、そして教育による人づくりである。
オマーンは今、石油とガスという天然資源の枯渇に備えて、多角化戦略を打ち出し、国を挙げて、経済発展と産業構造の転換に取り組んでいる。経済基盤と国民生活の向上を支えるのに、最も重要なものの一つが電力である。

丸紅  丸紅は、オマーンの発電容量の25%を供給する200万㌔ワットの発電所を建設し運転している。首都マスカットから海岸線を南東に150㌔㍍下ったスールに造られたこのオマーン最大規模の発電所は、天然ガス焚き複合火力(コンバインドサイクル)方式で発電を行っている。ハジャール山地の南の果てに生まれた新しいスール工業地帯は、オマーン経済発展の重要拠点であるが、国内需要の約1/4をカバーする当発電所からの電力の大半がマスカットに送電されている。

2011年3月に入札が行われ、丸紅は中部電力等と手を結んで受注に成功し、2014年12月から運転を開始した。オマーン石油ガス省から燃料供給を受け、オマーン電力水調達会社(OPWP)に対して15年間の売電契約に基づき電力を販売している。運転開始から既に2年が経過したが、無事故、無災害で発電所を運転し、電力の安定供給を行っている。

オマーンは1990年代から電力事業の民営化を積極的に進めており、卸電力供給を目的とする独立発電事業者(IPP=Independent Power Producer)方式にて多数のプロジェクトが運転中であり、丸紅が受注したスールIPPプロジェクトは11件目である。新しく設立した事業会社フェニックス・パワーへの出資者は立ち上げ時点では丸紅50%、中部電力30%、カタール発電水道会社15%、オマーンのマルチテック社5%であったが、2015年に株式を上場したため、現在はそれぞれ、32.5%、19.5%、9.75%、3.25%となっており、株式上場後も本邦株主の出資が過半を占める。融資銀行団を見ても、国際協力銀行(JBIC)、みずほ、三菱東京UFJ、三井住友など日本の銀行6行が融資、また、商業銀行の融資に対して日本貿易保険(NEXI)が保険を付保している。技術面を見ても蒸気タービンは富士電機が納入しており、出資、融資、技術と多方面で日本勢が要となっているプロジェクトである。

オマーンでは年間8%もの電力需要の伸びが見込まれている。都市のインフラ整備や大型リゾート開発、また、生活水準の向上に伴うより広い住居の建設といったものが、電力需要を押し上げている。

プラントを完成させて政府に納入すれば契約が終了するEPC方式(EPC=Engineering, Procurement, and Construction)と異なり、スールIPPプロジェクトは、15年間にわたって電力を安定供給する長期的な事業であり、オマーンに根差した事業と言えよう。

マスカットに本社を置く事業会社フェニックス・パワーは現在英国人社長以下12人で運営されている。
初代CFO(最高財務責任者)として丸紅本社から西野智揮氏が派遣された。 西野氏 約3年半の駐在期間中に、マスカット証券取引所で株式上場を果たし2015年夏に帰国、現在は海外電力プロジェクト第四部電力事業第一チーム長を務めている。日本オマーン協会は、建て替え工事のため、大手町から東京日本橋タワーに移転した丸紅本社で、スールIPPプロジェクトの事業について西野氏から詳しく話を伺った。
(丸紅の組織図や海外プロジェクト全体については丸紅ホームページを参照)

―丸紅にとって、オマーンでのCSRとは何ですか?
(西野) 我々の使命は電力の安全、安定供給を通じてオマーンの健全な発展に貢献することで、これが我々のCSRの根幹にあります。また、オマーンの重要課題の一つであるオマーニゼーションについても積極的に取り組んでいます。

―オマーン人を積極的に雇用するというオマーニゼーションでは具体的にどのようなことに取り組んでいますか?
(西野) 丸紅は湾岸諸国でスール以外にも7件の発電所を運転していますが、オマーン人は勤勉で向上心が高いと感じます。一方、発電所の業務経験が少ない、また、技術的な教育を受ける機会が少ないため、安全・安定的に運転を行うためには、現時点ではある程度外国人スタッフに頼らざるを得ないのが実態で、我々の発電所でもイギリス人、インド人、パキスタン人、フィリピン人等が働いています。それでもオマーン人の比率を上げるための努力は日々行われていて、現在、運転・保守管理を担当するO&M会社の約2/3がオマーン人で、今いる外国人スタッフのポジションも今後徐々にオマーン人スタッフに移行する予定です。
また、オマーニゼーションに加えて、「スーリゼーション」、つまりスールの住民の雇用にも積極的に取り組んでいます。スールはマスカットと比べても雇用機会は限られていて、スールIPPプロジェクトはスール住民の貴重な雇用の受け入れ先ですし、また、地元住民が地元で仕事を見つけてご家族と幸福に生活するというのが本来の姿だと思います。入社した時は発電所の「は」の字も分からなかったけど、我々のプロジェクトで頑張って色々と勉強してもらって、将来的にはこういった若者がオマーンの電力供給を担う、そういう姿を見たいですし、その素質を持ったスタッフは数多くいると思います。
そういう流れを加速化するために、スールIPPプロジェクトではスタッフのトレーニングには非常に力を入れていて、発電所内にトレーニングセンターを設置しました。元々発電所長の部屋だったのですが、発電所長が、「俺はこんなに広い部屋は要らないから」と言ってトレーニングセンターに改築しました。ここでスタッフは厳しいトレーニングを受けて日々成長しています。オマーンでよくある話として、こうやって成長したと思ったら転職してしまって、というのは我々の頭痛の種でもありますが、それはそれでオマーンのためになっているのだから、と肯定的に捉えるようにしています。本当は痛手なのですが。発電所内にトレーニングセンターを持っているのはどうやらオマーンのIPPでは我々だけのようで、我々のお客様であるOPWPもこのトレーニングセンターに関心を持たれ、昨年もOPWPスタッフを複数回に亘り長いときは2-3週間受け入れてトレーニングに参加頂きました。こういった形で、我々のスタッフだけでなくオマーン全体の底上げに少しでも寄与できればと考えています。

―売電契約は15年間ですが、それまでに運転要員はすべてオマーン人にしようとしているのですか?
(西野) 職種によって若干異なりますが、全体的には人的資源省はほぼ全員をオマーン人にすることを求めています。我々も、オマーン人が自国の電力供給を担う姿を見たいと考えていますので、政府側と目線はさほど離れていませんが、発電所の仕事は経験を踏んで成長していくものですので、時間をかけての話にはなりますし、また、何よりも安全、安定的に発電することが我々の絶対的使命ですので、そこは妥協出来ないと思っており、この手の話を人的資源省とは定期的に行っています。

―地域レベルでのCSRはどんなものが有りますか?
(西野) フェニックスは、社員のご家族を含めると300人を超える大ファミリーです。この大ファミリーに幸福な生活を提供するというのが何よりの使命だと思います。
それに加えて、毎年、会社としてCSR計画を策定、CSR予算を組み、同CSR計画に基づきアクションを取っています。例えば、ラマダン期間中には地元の皆さんに日没後のお食事(イフタール)を提供、社員でビーチの清掃、学校を訪問して安全管理の啓蒙活動などを行っています。

―将来はどんなことをやるつもりですか?
(西野) 学校に本を寄付、病院を訪問してプレゼントの贈呈等も考えています。我々のビジネスで常に意識している安全管理や教育の重要性を何らかの形で地域の皆様に還元させて頂きたいと考えています。

(文責:目魁 影老)