第9回 特別公開市民講座の概要
一般社団法人 日本・オマーン協会
「日本の安全保障と中東」の演題で、前田講師が基調講演を行いました。講師の前田哲氏は、前内閣官房副長官補(兼)国家安全保障局次長(兼)内閣サイバーセキュリティセンター長として安倍内閣の安全保障、防衛政策を補佐、担当されました。安倍政権の国家安全保障政策、最近の国際安全保障環境、我が国と中東との関連について、経験を踏まえ講演されました。
グローバルな課題に関係国が多くの分野で協力して対応することが求められる現在の国際社会において、中東地域の安定と発展を考察し友好親善の方向を探るうえで示唆に富む講演でした。
基調講演は、概要以下のとおりです。
- 安倍政権は、安全保障会議を国家安全保障会議に改組するとともに補佐機関として国家安全保障局を新設し、また、安全保障法制を整備するなど、我が国の安全保障政策を遂行する基盤を整えた。
- 中国については、ここ10年で大きく変化している。貧しい古い時代の中国は現在の発展する中国に変貌し、中国共産党の指導力と正統性を内外に誇示している。また、軍事力を飛躍的に増強し、海洋進出、影響力拡大に努める一方、習近平は権威主義体制構築を一段と進めている。反面、国内外に幾つかの「弱さ」を抱えているのも事実であり、今後の動向に注視する必要がある。
- アメリカについては、オバマ政権、トランプ政権と続いた国内外の混迷状況を引き継ぐバイデン政権が成立した。同政権は、対中強硬姿勢を維持しながら、国内の中間層のための外交政策、同盟国との緊密な連携の重要性を強調する。しかし、トランプ政権がもたらした欧州諸国との関係悪化の修復は容易ではなく、また、東アジアにおいても、中国に対する全般的な対決姿勢とグローバルな課題での協力の両立、南シナ海や台湾問題での政策など難しい対応が求められる。アメリカの相対的な力の低下は否めないが、依然としてアジア太平洋での大きな影響力を維持し、地域安定の中核プレイヤーであり続ける。
- 北朝鮮の核、ミサイルの脅威については、現時点では比較的安定し、落ち着いている。経済制裁やコロナ感染予防の影響を大きく受けていると思われるが、今後の動向に予断は禁物である。
- 軍事技術の急速な発展は、紛争の形態を大きく変える。核兵器の出現から精密誘導兵器による攻撃に、さらに、ドローン、AIを使用する無人の戦いにシフトしつつある。技術をめぐる動向と戦い方の変化は、日本も避けて通ることのできない問題である。
- 日本の安全保障政策と中東の関係は、これまでは主に石油や中東の軍事情勢・テロの動向を巡って議論されてきた。しかし、経済成長やグローバル化のもたらす「負の部分」への対応が求められる今日、イスラム社会への理解は、先進国の社会、経済、安全保障のあり方を考え直す契機にもなりうる。
- これからの安全保障政策を考える際は、自由・民主主義などの基本的価値観、国益、地域の安定などについて、まず自らの足で立って考えることが前提である。現在の国際環境において、安全保障の間口は広く、具体的な政策は多岐にわたる。独立国として主体的に考え、地域と国際社会で役割と責任を担う存在となることが肝要である。
基調講演の後、パネリストとして、中西 俊裕 帝京大学教授、佐藤 賢 日本経済新聞社元北京特派員が参加され、討議懇談が行われました。中西教授から、イスラエルとUAE, バハレーンとの国交樹立、バイデン政権とイランの核合意など最近の地域情勢についての説明がありました。また、佐藤さんから、最近の中国の雰囲気が2008年頃の中國の雰囲気と似ているとの指摘がありました。
2008年はリーマンショック後に経済を立て直し、「中国の特色ある」やり方に自信を持ち、公船の尖閣周辺侵入や国産空母保有の方針を固めた、2020-21年はコロナ感染を抑え、経済や外交で「中国の特色ある」やり方に自信を持っている、とのコメントがありました。
会場の参加者からの質問を受け、中国の海洋への軍事進出に関連し、台湾をめぐる米中の対立、海警法の制定と尖閣諸島に関連する問題、また、北方領土問題の行方等我が国の安全保障に関連した応答が積極的に行われました。また、バイデン政権の中東政策、イスラエルの動向、また、新国王の下でオマーンは地域の安定に引き続き重要な役割を果たすだろう等、活発な討議懇談が行われました。
今回の特別公開講座は、グローバル化がもたらす格差と分断に国際社会が協力して対応、解決に努力している現状において、我が国の安全保障政策と中東との関係を考察するものです。オマーンとの友好関係を考察する際も、グローバルな視点、地域の事情、また、歴史、文化、宗教等の多岐にわたる分野について、相互理解と認識を深めることが重要です。皆様の参考にして頂ければ幸いであります。
協会は、微力ではありますが友好親善の促進に努力して参ります、引き続きご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
( 講演概要は、協会事務局の責任で作成いたしました。 )
※下の画像は、当日会場で配布したプログラムの内容になります。(画像下部にある矢印でページをめくることができます)