一般社団法人
日本・オマーン協会
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事業報告 今年度2回目の市民講座は、エジプトの農村で撮影してきた結婚式の写真や動画を見ながら、中東・イスラーム社会について学ぶ楽しい集いでした。カイロ・アメリカン大学に留学して社会学や人類学を学んだ講師の竹村和朗(かずあき)氏は、冒頭の自己紹介で、「私の専門は文化人類学です。イスラーム研究者とは名乗っていません」と切り出し、庶民の結婚式からイスラーム法と慣習の理解を試みるというものでした。 かつて、西欧思想に代わる抵抗の象徴として、さらには米ソ冷戦後の宗教復興の旗頭として、イスラームは期待を集めたことがあったが、今はISなどの過激思想の跋扈により不安と恐怖がないまぜになっている。また、すでに中東には多くの国家が誕生し、歴史的にも政治的にも、あるいは文化や人口動態から見ても、それぞれのナショナリズムが芽ばえ、一括りに「中東・ムスリム社会」を論じるのは難しい。 19世紀後半以降、イスラーム世界の多くの国々では、西欧列強の圧力の下で、近代法に範をとった法整備や制度改革が行われた。しかし例外的に婚姻や相続を扱う「家族法/身分法」は、西欧的な民法や法制改革の影響を受けず、古くから形づくられたイスラーム法を踏襲した。エジプトで法律婚が始まったのは1915年の「マーズーン法」(婚姻登記人)からである。また、1985年にアラブ連盟によって初めて「統一アラブ身分関係法草案」が作成された。 統一身分法第5条=婚姻は、男と女の間の法的憲章(契約)である。その内容は、夫の庇護の下で安定した家族を創り守ることである。家族は、愛情と慈悲により、その重責の負担を二人に保証する基礎の上に成り立つ 統一身分法第19条=婚姻関係の柱は以下の通り。(a)二人の結婚当事者(b)申込と承諾<ちなみにオマーン身分法第16条は(a)申込と承諾(b)後見人=女の人には父親などの男の後見人が必要(c)結婚資金=サダーク(d)書面提出> 2010年から2012年にかけて、ナイル川のデルタ北西部のブハイラ県バドル郡を訪れて、フィールドワークを実施し、20以上の結婚披露宴に出席した。 エジプトでは、結婚には「法」「宗教」「社会・慣習」の3つの手続きが必要で、婚姻登録人(国家の役人)が前の二つを担う。しかしこれだけでは結婚は成立したとはいえず、社会・慣習的な儀式の「披露宴/祝宴」(ファラハ)を行った後で、初めて一緒に住むことになる。 婚約すると、男性が住居や結婚指輪、家具、披露宴の費用を用意する。女性は台所や寝室の家具など揃え、それぞれが用意したものをリスト化する。夫婦の共有財産ではなく、それぞれの財産であり、離婚時の財産分与に備える。 準備が整ったら、地域に一人はいるマーズーンを呼んで婚姻契約を行う。婚姻契約には、@花婿、A花嫁の後見人(父や兄)、B最低二人の保証人(成人の理性あるムスリム)、C契約書――が必要で、これで法的には夫婦になる。 ついで家具の行列となる。花嫁は同行せず、近親者が新居に持って行って飾る。 披露宴の前夜、花婿と花嫁はそれぞれの家で小さなパーティー(ヘンナの夜)を催す。 いよいよ披露宴(ファラハ)が涼しくなった夜8時〜9時から始まり、空き地に設えられた会場に村の人々が集まってくる。誰でも参加していいから、食事や飲み物の会場は超満員、一人数分ずつの腹ごしらえ。壇上に花婿、花嫁が到着すると、お雇い芸人の楽団演奏やパフォーマンス。皆も歌や余興で盛り上がり、夜の11時から12時に散会となる。この儀式を経て初めて二人は一緒に暮らし始める。 さらに翌朝には、母親や近親者が食事やお祝を持って新居を訪れる「朝の訪問」(サバーヒーヤー)という儀式が待っている。 (文責:目魁 影老) |