第1回オマーン市民講座

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中東情勢

2016年6月1日(水)

外務省中東アフリカ局長第二課の西永知史課長から、1時間余り、中東情勢について、外務省を代表するものではなくあくまでも個人の見解であることを前置きに、お話を伺いました。

中東地域の重要性
中東・北アフリカ地域の国々は非常に親日的であり、人口5億人、経済規模は5兆ドルに達し、マーケットとしても重要である。そして、米国の政治的、軍事的関与の大きい地域だけに、日本にとっては対米関係上も重要な地域である。グローバルな視点では、①テロ・大量兵器の拡散リスクを抱えている点、②世界有数のエネルギー供給源と物流の要衝であり、世界の石油生産の30%、天然ガスの16%を占めており、日本は中東から石油の80%、天然ガスの30%を輸入している点からも中東地域の重要性が指摘できる。

中東地域の抱えるリスク
現在の中東地域の抱えるリスクは2点ある。一つ目は、①異なる宗教・宗派・民族の混在と、ヨーロッパによって引かれた人為的国境線により統治が潜在的に脆弱であること。中東・北アフリカは,①共和制の国家②GCC③産油国でない王政国家、という3つに分類することができるが、軍出身の強力なリーダーによって保たれていた共和制のガバナンスが、「アラブの春」によって瓦解し、民主的な統治が機能しなくなっている。さらにリスクの二つ目は、②伝統的な大国間の対立と不信感が燻り続け、5つの主要勢力(サウジ、エジプト、イラン、イスラエル、トルコ)が牽制し合っていることである。(サウジは人口3,000万人、経済規模7,500億ドル(60%が原油)、エジプト9,000万人、2,700億ドル、イラン7,700万人、4,000億ドル、イスラエル800万人、2,700億ドル、トルコ7,800万人、7,200億ドル。)

最近の中東情勢
最近の情勢は、まず①サウジ(アラブ)とイラン(ペルシャ)関係の深刻化である。イランは核合意により欧米との関係改善を進め、周辺国への影響力が強まっているとの見方もある (例えばイエメン)。他方,サウジはスンニ派大同団結を進め、また,イエメン空爆にも踏み切った。
そして②ISIL、ヌスラ戦線、アル・カーイダ等の跳梁跋扈である。ISILの支配領域が縮小する一方,今度は域外への脅威拡散が始まり、シリアの政治プロセスはさらに混迷を深め、難民の流入は周辺国の負担を急増させた。さらに、混乱に輪をかけるように、クルド問題が顕在化してきた。
その一方で、③かつてはグローバル的には最大の関心事であった中東和平 (イスラエルとアラブ・中東各国との和解を探る動き)の推進は、止まってしまった。
そして④が石油価格の下落である。米シェールオイルやロシアや新興産油国との競争、そして中国経済の失速による世界的な経済混迷により、国際的な石油価格は急落し、産油国は財政を圧迫され、危機に陥っている。

各論
西永講師は、中東全体を俯瞰した情勢を述べたのに続き、さらに詳細な配布資料に基づき、個別状況について話を進めた。
イラクとレバントのイスラム国(ISIL)の概要=豊富な資金、強力な軍隊、領域支配・発信力、米国による対ISIL戦略、空爆参加国、地上勢力
ISIL活動地域=パルミラ奪還など対ISIL連合の動き。ISILは空爆等によりイラクの40%、シリアの20%の支配地域を失った
シリア情勢と国際社会の対応=情勢は混迷
シリア・イラク及び周辺国に対する我が国の支援=総額16.4億ドルの非軍事的支援。シリアは人口2,240万であるが、そのうち国内難民660万人、トルコ難民275万、レバノン難民105万人、ヨルダン難民64万人、エジプト難民12万人
サルマン国王新体制下のサウジアラビア
2015年1月に即位したサルマン国王(81歳)は、初代サウド国王の息子たちによって受け継がれてきたそれまでの慣例を破って、皇太子に第三世代にあたるムハンマド・ビン・ナーイフ(56歳、内相兼務)を任命した。そして、副皇太子に自分の息子のムハンマド・ビン・サルマン(30歳、国防相兼務)を起用した。サウジは、米国の「湾岸離れ」に強い警戒感を持つようになっていると見られており、対イラン関係ではスンニ派を統合し強硬姿勢をとっている。
中東各国にとって、テロ対策は引き続き最重要課題であるが、内政では若者の雇用や教育、脱石油依存の経済対策といった大きな課題も抱えている。そこでムハンマド・ビン・サルマン副皇太子が経済開発評議会議長として、積極的に指導して「サウジ・ビジョン2030」を作成し、国王主催の閣議で承認された。①活気に満ちた社会、②繁栄した経済、③野心的で責任ある国家――を目指し、④ビジョン達成のための各種プログラムを盛り込んでいる。記者会見でムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は、アラムコ株式の5%未満の新規上場、2兆ドルの政府系ファンドの設立、観光産業の開放と世界最大のイスラム博物館の建設などを説明するとともに、油価と関係なく進めると、決意を表明した。
最近のイラン情勢=核合意により経済制裁が解除され国際社会に復帰する道筋ができたが、イランの思惑通りには成果が上がっていないとの見方がある。国内には合意に反対する保守派を抱えており、米大統領選の動向による影響も注視する必要あり。日本の外務省は各国の動向を注視しつつ、日本企業の進出を支援していく。
湾岸地域において独自の外交路線を進むオマーン
オマーンはスンニ派でもシーア派でもないイバード派の国家であり、地政学的な国土の位置から導かれた独自外交の道をとっている。湾岸の中では唯一イランとの友好関係を保持しており、核合意に至る交渉ではアメリカ・EUとイランとの仲介役を果たした。
イエメン内戦ではハーディー大統領が正当な代表者という立場で、人質となった外国人の救出を支援。イランの核問題の交渉では、アメリカとイランの双方から信頼され、感謝されている。シリア問題では、アサド政権と反体制派双方の紛争の当事者と等距離に立つと公言、双方との良好な関係を踏まえて独自外交を展開している。

(文責:目魁 影老)
<蛇足>
海洋国家として栄えた伝統を持つオマーンは、国と国の友好関係を樹立することに長けていた。さらに在位46年にもおよぶカブース国王は「アラブの智慧者」と称えられ、中東諸国から高い尊敬を受けている。

2018-06-15T12:51:47+00:00